「母から」 詩集『おかあさん』

  和箪笥の底から、着物を出した。手入れもせずに、箪笥で眠らせていた母の留袖だ。畳紙を開くと、母の匂いがした。裾に舞う銀ねず色の鶴と浪の模様。母が最後にこの着物を着たのは、弟の結婚式だったと記憶している。だとすれば、着物は二十年以上も畳まれたままだったのだ。

 六月に、昨年入籍し ・・・

【残り 1081文字】



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